日時 | 10月6日(日)14:00~16:00 |
場所 | 横浜市立大学金沢八景キャンパス YCUスクエアピオニーホール |
講師 | 榊原洋一学長 |
受講生 |
63名(4年生25名、5年生16名、6年生22名) |
昨年度からスタートした榊原先生による「学長ゼミ」。今年度は「進化」がテーマです。初めに「ゼミナール」とは、先生の話を学生が聴くという通常の「講義」と違って、学生たちが自ら調べ議論をしながら考えを深めていくという授業の進め方であることを学長が説明。学生たちは4、5人ずつのグループに分かれて学長からの質問に答え、それに学長がコメントするという形で授業を進めました。
――進化とは何か?
最初の質問は「進化とは何か」。学長から①より知能がよくなること②数が増えること③能力が増えること④適応力が上がること――の例が示され、それをヒントに各自が考える「進化」について、グループごとに話し合いました。
学生からは「環境に対応するために姿形が変わること」「サルが猛獣から身を守るために森を出て二足歩行するようになること」「生き延びるための生存戦略」などさまざまな意見が出されました。こうした意見に対して、学長は「半分は正解」としたうえで、「マンモスはゾウが進化したものだが、気候変動や狩りなどによって生きていけなくなった。また、シカの一種であるションブルグジカは進化の結果、角が立派に大きく重くなりすぎて絶滅した。進化とは必ずしも適応力が上がることではないのでは」と疑問を投げかけました。
――地球上で一番進化した生物は?
最初の質問で「ピラミッド型の生態系の最上位にヒトが位置している。ヒトが最も進化を遂げた生物だ」との意見が出たのを受けての第2問です。これには「いろいろな道具を使うことができる」「文明を作り出し、戦争などの過ち繰り返さない知恵もある」など、やはりヒトを推す声が多数を占めました。一方で、「海で生まれた最初の生き物で今も生き続けている魚類ではないか」「人に飼われるようになって脚が短くなったイヌもいるので、ペットとして買われるようになった動物たちだと思う」「体を切断されても再生するプラナリア」「抗体を突破しながら変異を続ける細菌やウイルス」などの生物も挙げられました。学長からは、ヒトは歴史から学ばずに失敗することもあることや、ペットや家畜化した動物は餌がもらえることで脳が小さくなったという研究結果があることが紹介され、「いろいろな見方ができるが、みなさんの意見をまとめると、知能はヒト、生命力はプラナリアや細菌・ウイルスということが言えそうだ」とまとめの発言がありました。
また、ある試算によると地球上に70億人いる全人類の総体重は6億トンで、魚類や節足動物の10分の1にも満たないこと、最も重いのはウイルス・細菌の7000億トンであること、生物全体の総重量の約8割は植物が占めていることなどが紹介されました。学長は「進化とは重さや数で測れない多様な面がある」と指摘しました。
――「進化論」とは
ここで「進化論」について学長が説明してくれました。進化論を初めて唱えた人はイギリスの19世紀の科学者、チャールズ・ダーウィンです。1859年に「種の起源」という本で発表しました。イギリスは「世界は神が創った」というキリスト教の国ですから、当時は反発も多かったようです。実はそれよりも前1857年に、アルフレッド・ウォレスというやはりイギリスの人が同じような考えを「永続的・地理的変種についての理論」としてまとめています。この人がマレー諸島で行った研究で、島ごとに種の特徴が異なることを確認し、環境によって動物は変わっていくということに最初に気づいたのです。この考え方は「自然選択説」と呼ばれています。ウォレスはその研究結果をダーウィンに手紙で知らせています。こうした中で「種の起源」が決定打になり、「進化というものは確かにある」「進化論は正しい」ということになったわけです。
ダーウィンには「種の起源」のほかにも「ビーグル号航海記」「人の由来」という有名な著書があります。「ビーグル号航海記」はダーウィンが20歳のときに小さな帆船で世界中を回った記録です。この航海が進化論を考えるきっかけになりました。ガラパゴス諸島の生き物や津波直後のチリの港の様子なども書かれており、みなさんにも読みやすい本です。ダーウィンはガラパゴス諸島の固有種のガラパゴスフィンチという鳥を観察し、岩場の多い島に棲む鳥のくちばしが他の島のものより大きく硬くなっていることに気づきました。また、火山島の上にできる環礁を見て、火山があったはずの真ん中の陸地が長い間に沈下してサンゴ礁が丸く残ったのだということもわかりました。このようにビーグル号で見聞きした経験から、進化にはとても長い時間がかかっていると考えたのです。
――動物や植物はどのようにして進化するのだろう?
最後の質問は進化の仕組みについてです。①突然変異②地理的隔離③雌の選択――をヒントに考えました。学生からは「突然変異で得たものが遺伝していく」「高い木の葉を食べるためにキリンの首が長くなったようにエサをとることと関係している」などの声が上がりましたが、これはむずかしかったようです。
学長から「獲得形質」ということについて説明を受けました。ヒトは遺伝子を3万個持っていて、生物としての特徴が親から子へと伝えられます。例えば両親の背が高いと背の高い子どもが生まれる傾向があります。背の高さを決める遺伝子は複数あり、代を重ねることで遺伝子も徐々に変わっていきます。戦後の日本人は身長が伸びており、そうしたカップルが増えることで少しずつ高身長の人が増えていくことになるのです。
突然変異は宇宙線や母親が服用する薬の影響などによって引き起こされます。普通は病気で死んでしまったりして後世に伝わらないことが多いのですが、中には遺伝するものもあります。例として「鎌状赤血球症」があります。赤血球の中のヘモグロビンという物質に異常が生じ、血管が詰まったり、貧血を起こしたりする病気です。ただ、この赤血球にはマラリアの病原虫が入り込めないという特徴があります。マラリアは熱帯や亜熱帯で年間2億2900万人が感染する恐ろしい病気ですが、マラリア発生地域と鎌状赤血球を持つ人の分布は一致しています。鎌状赤血球症のリスクの反面、逆にマラリアにかかりにくいことで、鎌状赤血球の原因になる遺伝子が進化の過程でも生き残ったのだといいます。
――まとめ
最後に学長は、子ども大学よこはまの副学長でもある安藤寿康・慶應大学名誉教授の「能力はどのように遺伝するのか」という研究成果を紹介しました。遺伝子はお父さんとお母さんから半分ずつもらっていますが、一卵性双生児の体格や知能指数は8割以上の割合で同レベルであるという研究です。学長は「みなさんは日曜にもかかわらず、自らきょうこの場に足を運んで熱心に勉強している。その向学心も両親から引き継いだすばらしい能力だ。今後もその能力を大切にしよう」とメッセージを送りました。
ほとんどの学生には初めてのゼミ形式の授業でしたが、質問が進むにつれてグループ内討議も活発になり、意見発表では次から次へと手が上がるなど、仲間と話し合うことで学びを深めることができた授業でした。