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第4回授業「鉄道とSDGs & 超電導リニアのしくみ」」

 

加藤 清隆(かとう・きよたか) 先生

 

東海旅客鉄道リニア・鉄道館副長

 

令和7年1月26日(日)14:00―16:00

 

横浜市立大学シーガルホール(横浜市金沢区)

 

受講者74人(4年生29人、5年生19人、6年生26人)

 

 

 

 

 

東海道新幹線は1964年、日本で初めて開催された東京オリンピックの直前に東京―新大阪間で開業しました。当時の愛称は「夢の超特急」。世界初の高速鉄道として注目を集めました。それから60年。運転スピードは格段にアップし運行本数も飛躍的に増えて、今では多くの人が旅行や帰省、出張などの気軽な足として利用しています。運行している東海旅客鉄道(JR東海)は現在、より速く人々を運ぶために超電導の技術を使った「リニア中央新幹線」の開発・整備に取り組んでいます。学生のみなさんは近い将来、今の新幹線感覚でリニア中央新幹線を利用することになるでしょう。

 

今回の授業では、JR東海で新幹線の運転や設備の保守、リニア中央新幹線の計画・設計などに携わり、現在は名古屋市にある鉄道のミュージアム「リニア・鉄道館」の企画運営にあたっている加藤清隆先生が、鉄道会社のSDGsへの取り組みや超電導リニアのしくみについて解説してくれました。

 

 

 

 以下、講義の概要を紹介します。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

――はじめに

 

 私は大学・大学院で電気工学を学び、東海旅客鉄道――JR東海と言ったほうがわかりやすいですね――に入社してもう20年以上が経ちました。その間、新幹線の運転士や電力設備の保守、駅の橋上化の計画などいろいろな仕事を経験しましたが、最近はリニア中央新幹線に関連する計画や設備の設計に携わってきました。今は名古屋市にある「リニア・鉄道館」で、展示物の管理やお客様に楽しんでいただくイベントの企画などをしています。このミュージアムは、東海道新幹線を中心に在来線も含めた実物の車両をたくさん展示しているほか、超電導リニアのしくみなどを体験しながら学ぶことができる施設です。みなさんも名古屋に来る機会があったらぜひ足を運んでください。

 

 

 

――環境にやさしい鉄道

 

JR東海は、東京-新大阪間を結ぶ東海道新幹線と、名古屋地区・静岡地区を中心に8県にまたがるエリアで在来線を運行しています。東海道線でいうと静岡県の熱海駅から滋賀県の米原駅までがJR東海の担当エリアです。それともう一つ、注目を集めているリニア中央新幹線の開業に向けた準備も進めています。

 

SDGsいわゆる「持続可能な開発目標」をみなさんご存知だと思いますが、鉄道業界でも近年、より環境にやさしい鉄道を実現しようという取り組みを行っています。JR東海がどのように取り組んでいるかを紹介します。

 

人を輸送する手段はいくつかありますが、鉄道は他の手段より圧倒的にエネルギー効率のよい乗り物です。一人を1キロ運ぶのに二酸化炭素をどれだけ排出するかというデータで比較すると、自動車が130グラム、航空機が98グラム、バスが57グラムなのに対して、鉄道はわずか17グラムです。

 

なぜ少ないかというと、まず走行抵抗が小さいことが挙げられます。タイヤや車輪のように丸いものが回転すると、地面やレールとの間に進行方向と逆向きの抵抗が生じます。この力を「転がり抵抗」と言いますが、鉄道の場合レールと車輪の間に働くこの抵抗力が極めて小さいのです。

 

もう一つの理由は一度に大量の人を運べることです。東海道新幹線では1編成で約1300人運べるので一人当たりの二酸化炭素の排出量が小さくなります。

 

 

 

――省エネルギーへの取り組み

 

新幹線の省エネルギー化も進んでいます。時速220キロで走行する場合、1964年に登場した0系が東京~新大阪間を走行するのに消費するエネルギーを100とすると、1985年に登場した100系は79、1992年の300系は73、1999年の700系は66、そして2007年のN700系は51で、0系の半分にまで削減できています。

 

車両も軽量化されました。0系では1両あたり約60トンでしたが、時速270キロを実現した300系は約45トンです。車体を鉄製からアルミ合金製に変え、台車の構造を簡素化し、モーターを小型化するなどの積み重ねで、軽量化を実現したのです。300系には新幹線では初めて「回生ブレーキ」も装備されました。これは減速するときの運動エネルギーを電気エネルギーに変えて他の新幹線に送ることができるというしくみです。さらにN700系では「車体傾斜システム」が搭載されました。カーブを曲がるときに車体を傾けることで速度を落とさずに走行でき、加減速の回数が減るので省エネにつながるというわけです。

 

もちろん在来線の省エネ化も進められています。HC85系という車両はディーゼルエンジンで発電機を回して電気を作り、その電気でモーターを回転させて走ります。ハイブリッドですね。一世代前のキハ85系に比べ、軽油の消費量は約3割も減りました。

 

 リサイクルにも取り組んでいます。車両のアルミは野球のバットや建物の内装材などに生まれ変わっていて、東京駅構内の土産物店街の装飾にも使われています。リサイクルすることで新しく作るより二酸化炭素排出量を97%減らせます。

 

全ての人に優しい鉄道を実現するために、車椅子の方の乗車スペースを2座席から4座席増やして6席分確保した新幹線車両を投入したり、可動式のホーム柵を導入したりしています。

 

 鉄道には、まちを元気にする効果もあります。たとえば新横浜駅周辺は1964年の開業時はほとんど開発が進んでいない地域でしたが、それから60年で大きな街になりました。品川や名古屋にも同じようなことが言えます。新幹線の駅ができることは地域に大きなインパクトを与え、まち全体を発展させるきっかけになるのです。

 

 

 

――鉄道高速化の歴史

 

 超電導リニアについて説明する前に、鉄道がどのようにスピードアップしてきたのかを確認しておきましょう。東京と大阪の間は1930年代は8時間半かかりました。C62という蒸気機関車が引っ張った「燕(つばめ)」という特急の速さは時速95キロ、当時としては驚異的な速さでした。1958年には初めての電車特急「こだま」が登場、速さは時速110キロまで上がって所要時間は6時間半になりました。

 

 その頃から経済成長などで東海道本線の輸送力が目一杯になります。そこで1964年に誕生したのが東海道新幹線です。抜本的な対策として線路幅の広い「標準軌」と呼ばれるレールを使い、直線区間を増やすなどルートも見直した新たな路線を作りました。これによって時速200キロを達成し、東京―新大阪間が4時間で結ばれることになりました。現在は時速285キロ、約2時間半に短縮されています。

 

 運行ダイヤもずいぶんと密になりました。新幹線開業時は「ひかり」と「こだま」が1時間に1本ずつ走るだけでしたが、「のぞみ」の運転開始翌年の93年には「のぞみ」1本、「ひかり」7本、「こだま」3本になり、20年は「のぞみ」12本、「ひかり」2本、「こだま」3本にまで増えています。東京駅では回送列車も含めると平均3分間隔で新幹線が発車している計算です。

 

 このような過密運行が続く中で、東海道新幹線の輸送力も限界に近いという議論が再び起こるようになりました。開業から60年が経って施設設備は老朽化しており、地震などの災害リスクへの対応も必要です。こうした課題をクリアするためには、東京と大阪を結ぶ大動脈を二重化する必要があるということになったのです。二重化にあたっては、東京―名古屋―大阪を今よりもっと近くして東京への一極集中を食い止める国土の均衡ある発展に資するという狙いから、超電導リニアの技術を活かすことが計画に盛り込まれました。これが今建設中のリニア中央新幹線です。想定されている時速は500キロですから、開通すると東京―名古屋間は40分、東京―大阪間も67分しかかかりません。3大都市圏が一つの巨大都市圏になると言っていいと思います。東京~大阪間のお客様が超電導リニアに移り、東海道新幹線の輸送力余裕が生まれる見込みであることから、現在の「のぞみ」中心から「ひかり」「こだま」中心のダイヤに切り替わる予定です。

 

 

 

――リニア中央新幹線とは

 

 現在の形の新幹線で時速500キロの営業運転を行うことはできません。鉄道は車輪とレールの間の摩擦が小さいので、あまりにも速いと車輪が空回りしてしまうのです。リニア新幹線の研究開発は、JRがまだ国鉄だった1962年にスタートしました。1997年から山梨県内の実験線で走行試験を続けていおり、2003年には時速581キロの当時の世界最高速度を達成しています。

 

 超電導リニアはレールから浮き上がって走行します。どうしてそんなことができるのでしょう。通常のモーターは回転軸を中心に内側の磁石と外側の磁石があり、磁石の力を利用して回転します。一方、リニアモーターは通常のモーターの磁石を切り開き、直線上に引き延ばした形状をしており、直線的に運動が行えるのです。では「超電導」とは何でしょう。特定の物質をマイナス273度近くまで冷やすと電気抵抗がゼロになります。この現象が超伝導です。リニアはとても強力な電磁石で車両を浮上させて走行するのですが、この電磁石を作るコイルに超伝導が使われます。

 

リニアは車両に浮上・案内コイル、地上側に推進コイルを設置して、このコイルに地上側から電流を流すことで電磁石とし、推進力を作り出します。磁石にはN極とS極があって引き合ったり反発し合ったりすることは知っていますね。このN極とS極を交互に並べることで反発力と引き合う力を利用して前進するのです。

 

また、車両の超伝導磁石が高速で通過すると地上に設置した浮上・案内コイルに電流が発生して電磁石になります。これが車両を押し上げる力、浮かせる力になるのです。リニア1車両の重さは30トンですが、それを約10センチも浮き上がらせます。すごい力ですね。車内に必要な電気は「誘導集電技術」を使って非接触で集めて利用します。

一般的な車両にはゴムタイヤも付いていて、発車時と停車時はこれを使います。時速150キロまではタイヤで走り、浮上したら引っ込めます。走行時は磁力のほかに飛行機と同じように揚力も利用します。浮力は外から電気を引いていないので、停電になってもすぐにガタンと落ちることはありません。このように、あらゆる技術をブラッシュアップして実用化に取り組んでいるのです。春休みには実験線での体験乗車も予定していて現在募集中です。最新の技術が詰まったリニア新幹線の醍醐味をぜひ一度味わってください。